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村岡社会保険労務士事務所
特定社労士 村岡 史章
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労働契約と就業規則対策室>判例>就業規則・懲戒(電電公社帯広局事件)
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労働契約 |
◆電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決)
(概要)
健康診断受診の業務命令を拒否した労働者に対して、懲戒処分を行った
事案で、秋北バス事件の最高裁判決の考え方を踏襲し、就業規則上の労働
者の健康管理上の義務は合理的であり、労働契約の内容となっているとし、
健康診断の受診拒否は懲戒事由に当たり、懲戒処分が有効とされた。
(事案の概要)
Xは、Y公社帯広電報電話局に勤務し、電話交換の作業に従事する職員で
あった。Xは、昭和49年7月、頸肩腕症候群と診断され、公社の健康管理規
程に定める指導区分のうち、最も病状の重い「療養」にあたることとされた。
その後、指導区分の変遷を繰り返し、Xは、本来の職務である電話交換の
作業には従事せず、電話番号簿の訂正等の事務に従事していた。
Yは、昭和53年10月、Xに対し、頸肩腕症候群の精密検診を受診するよう
二度にわたって業務命令を発したが、Xはこれを拒否した。労働組合は、
この検診が労使確認事項であるとしながらも、Xが受診拒否の意向を示して
おり、業務命令発出という形にまで発展したことを重視し、非公開で団交を
行った。この際、Xは、会議室に立ち入り、組合役員の退去指示にも従わな
かった。この間、Xは、約10分間にわたり、職場を離脱した。
Yは、Xに対し、受診拒否が就業規則59条3号(上長の命令に服さないとき)
の懲戒事由に該当し、また、職場離脱は、同59条18号(第5条の規定に違反
したとき)所定の懲戒事由に該当するとして、懲戒処分をした。
(判決の要旨)
一般に業務命令とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う
指示又は命令であり、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令を
もって指示、命令することができる根拠は、労働者がその労働力の処分を
使用者に委ねることを約する労働契約にあると解すべきである。すなわち、
労働者は、使用者に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して
労働契約を締結するものであるから、その一定の範囲での労働力の処分に
関する使用者の指示、命令としての業務命令に従う義務があるというべきで
あり、したがって、使用者が業務命令をもって指示、命令することのできる
事項であるかどうかは、労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した
範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであって、この点は結局の
ところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものということができる
ところで、労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範と
しての性質を有するだけでなく、その定めが合理的なものであるかぎり、
個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという
事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質を認められる
に至っており、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に
知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたか
どうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから(最高裁昭和
43年12月25日大法廷判決〈秋北バス事件〉)、使用者が当該具体的労働
契約上いかなる事項について業務命令を発することができるかという点に
ついても、関連する就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりに
おいてそれが当該労働契約の内容となっているということを前提として検討
すべきこととなる。換言すれば、就業規則が労働者に対し、一定の事項に
つき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業
規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約
の内容をなしているものということができる。
公社就業規則及び健康管理規程によれば、公社においては、職員は常に
健康の保持増進に努める義務があるとともに、健康管理上必要な事項に関
する健康管理従事者の指示を誠実に遵守する義務があるばかりか、要管理
者は、健康回復に努める義務があり、その健康回復を目的とする健康管理
従事者の指示に従う義務があることとされているのであるが、以上公社就業
規則及び健康管理規程の内容は、公社職員が労働契約上その労働力の
処分を公社に委ねている趣旨に照らし、いずれも合理的なものというべきで
あるから、右の職員の健康管理上の義務は、公社と公社職員との間の労働
契約の内容となっているものというべきである。
もっとも、右の要管理者がその健康回復のために従うべきものとされている
健康管理従事者による指示の具体的内容については、特に公社就業規則な
いし健康管理規程上の定めは存しないが、要管理者の健康の早期回復と
いう目的に照らし合理性ないし相当性を肯定し得る内容の指示であることを
要することはいうまでもない。しかしながら、右の合理性ないし相当性が肯定
できる以上、健康管理従事者の指示できる事項を特に限定的に考える必要
はなく、例えば、精密検診を行う病院ないし担当医師の指定、その検診実施
の時期等についても指示することができるものというべきである。
以上の次第によれば、Xに対し頸肩腕症候群総合精密検診の受診方を命
ずる本件業務命令については、その効力を肯定することができ、これを拒否
したYの行為は公社就業規則59条3号所定の懲戒事由にあたるというべきで
ある。
そして、前記の職場離脱が同条18号の懲戒事由にあたることはいうまでも
なく、以上の本件における2個の懲戒事由及び前記の事実関係にかんがみ
ると、原審が説示するように公社における戒告処分が翌年の定期昇給に
おける昇給額の4分1減額という効果を伴うものであること(公社就業規則
76条4項3号)を考慮に入れても、公社がXに対してした本件戒告処分が、
社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた
違法なものであるとすることはできないというべきである。
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